「今日はもう遅い。詳しい話は明日以降、またここで行う事にしよう」
「それまで、せいぜい羽休めをするといい…」
脇に立つ自分から見て、魔王が城へ呼びつけた人間と、片翼の神(?)を見下ろしている。
側にいた従者に命ずる魔王。
「二人を、街の外れにある屋敷に案内しろ」
一瞬飛び上がったような、戸惑いと驚きの顔を見せる従者二人。
その僅かな間に、鋭い目つきをますます尖らせた魔王。
「はいっ。かしこまりました。魔王様」
その様子を見ている涼春と女神。
ユサ視点がゆるやかに始まる。
(ここの間にユサ視点のVS魔王が入る。レムリリアと共に片付けをしていたユサは、彼女に引き留められ、招集を無視していた。
魔王様程のお方が私達のような非力な者の力を必要とはしないですわ。わたくしと共にここに残りましょう。って。
でも、ユサは気になって、窓の外を見ると、上空に大きな大地が逆さまにそびえ立っているのが見える。
クロリリアが引き留めるも、思わず飛び出していってしまう。)
涼春が魔王のマントに突っ込む少し手前でやってくる。悪魔達は端で静観していて、手を出していない。
やはりそうだ。魔王様お一人で十分。今更、自分が急いできたところで何も出来る事はない。
途端に叫び声があがる。少年の声だ。見ると地に転がり、動けなくなっている姿が映る。
魔王はその後ろから近づいて来て、少年が呻くほどの勢いで背を踏みつける。
(嫌だ、そんな――!!)
何故そう思ってしまったのだろう、空高く剣を振りかざす姿を見て、ユサは「起こって欲しくない」と思ってしまう。
冷徹な、魔王を見たくない。そんな人になって欲しくない――!
うねりうごめきながら立ち昇る闇炎。身を硬くし、ギュッと目を瞑るユサ…。
「惚れたよ」
彼女が目を開けると、そこには剣を地に突き刺し 静観する魔王。そして、一面の花畑。少年の姿がない、と一瞬探してしまったがすぐに、花にうもれてしまっているのだと気付いた。それまで、この場に纏っていた緊張が消え、ゆるやかな空気が流れた(ユサはまだ気づかない)。
慌てて飛んで、駆け寄る。同時にレイカも跳んで駆けてきたらしい。「魔王様!」「どったの!?」
「気が変わった」
気が変わった…?一体何の…?かなり動揺していそうなユサ。
見上げてハッとした。彼の、表情があの、いつも声を掛けてくれる、あの優しい顔だったのだ。
***
あの後、すぐに元の表情に戻ってしまいましたが……。それでも。
あの人が、魔王様を、いいや秋良様を。変えてくださったのだ。
ユサに連れられ、あちこちを――洞窟や断崖絶壁にある階段、また洞窟、いよいよ道が無くなる、と思った矢先に針葉樹の林の中――を進む3人。突然、ユサは立ち止まってしまい…。
「あのっ……!」
「ど、どうしたんだ…?」
(敵に頭を下げるなんて。きっと変だと思われる。
ですがそれでも。あのお方を、ほんのすこしでも救ってくださった、お礼を。ありがとう、ございます…。)
しばらく頭を下げたままだったユサだが、ガバッと頭を上げて。
夕刻の屋敷が遠くに映る。
「何でもありません。さ、こちらですよ!」