決別

悪魔達の誕生を見守る魔王と他の悪魔達。
そして誕生した悪魔は十数匹になり(※ここあとで数合わせ)、魔王城に活気が溢れて来た頃の話。

魔王は、自身の城の地下へ降りていく。
長く、暗い、黒い石造りの螺旋階段を降りた先にあったのはーー、同じく黒い石造りの空間。
部屋の天井から、影で形成された漆黒の檻が下りている。
部屋に入り、檻をすり抜けた後、魔王は羽織っていたマントを消し去った。
そして、檻の中に捕らえられた者を見下ろした。

 

そこには、壁から伸びた黒い鎖に繋がれ、手足を拘束された、片翼の幼い少女がいた。
壁に寄りかかるようにして座っているが、手足はだらんと床に投げ出され、頭はうなだれていて、動かない。
眠っているのか、秋良が近づいても反応はなかった。

「食事は…摂っていないか」
部屋の脇に置かれた水と果物を横目で見て、少女の前に屈んだ。
両手で少女の体を支え、体の状態を確認する。
少し痩せ細ったが、傷の治りは悪くない。これなら背中の跡も残らないだろう、と安堵した。
体を元に戻す際、偶然少女の髪に手が触れた。
髪が少し伸びたような気がしたが、考えすぎかと思い、手を離した。

「もうじきここも騒がしくなる」
「この部屋まで迷い込んだ誰かが、この状態を見て、異論を唱えるのは間違いない。そうなってしまったら、君も僕も終わりさ」
青年は声をかけるが、返事はない。

「ここ(魔王城)に置いておくわけにはいかない事くらい、分かるね」
「今の君と魔王は……敵同士なんだ」
影を纏う。手の中には、黒く蠢く、丸い錠剤のような形の何かが収まっている。

(これを飲ませて、君のもう片方の翼を無くしてしまうことだって出来る…が、)
何も言わない少女を見て、静かに握り潰した。

「また明日、様子を見に来るよ」
影に包まれた青年は檻を通り抜けて、暗い闇の中へ消えた。