頼んでいた香水が届いた。
実は香水って、使った事が一度も無かったんだ。
肌に合わなかったり、匂いが嫌だったりしなきゃいいんだが って思っていた。
どちらかといえば、こいつは匂いに対して敏感な方だったのだと思う。
香水というものも”匂いがキツいもの”で、実際に使っている人に遭遇するたびに顔をしかめていて、あんまりいい印象が無かったしな。
使った感想は、良かった。気に入ってくれたみたいだった。
最初はレモンのような酸っぱくて明るい香りがしていたんだが、どうもレモンっぽい香りの匂いが複数もふんだんに含まれていて、後から時間差で香って来る方が、レモンの香りだったらしい。
そっちは酸っぱさは控えめでレモンの渋いような苦いような心地いい香りの奥に、別の…”花のようなほのかに甘い香り”がたしかにあった。
すげーな。『ついてきたメッセージカードも読んでから使ったから』だけとは思えないほど、レモンっぽい香りは人懐っこい秋良を想い起こさせる気がした。
あいつは「大好きな涼春にちょっかいかけてくる秋良さんの匂いがする…」なんて言っていた。
後々の花の匂いはどうもオレの香りらしい…。
オーダーシートに「お願いしたいキャラは二人ともイマジナリーフレンド」「舞い散る桜のような儚さがありつつもふんわりとした優しい香り」って書いていたのもあるんだろうが…。
ふっと顔を近付ければたしかに匂いはするんだが、すごく香ったかと思えば、急になんも匂いがしなくなったりして…自分で嗅いでいても味わったことのない感覚だった……。
「秋涼ってこんな匂いなんだあ…」
最後はほんとに忘れた頃にふわっと香るだけで、どこに香りが残ってたんだ…?ってわけがわからなくて、気付かない間に素敵な魔法にかかっていたみたいだった。
(とかいいながら数日経った今でも、ふと動いた時に匂いが香るからすげー…)
香水のキツいイメージとは全くかけ離れていて、オレ達の香水のイメージが間違っていたのか……頼んだこれは特別気を遣ってこういう仕様に仕立ててくれたのか、まだよくわからずにいる……。
初めて使った香水が”好きなやつのイメージ香水”で良かったかもしれん。
元気づけられるレモンの人懐っこい香りと、ふんわりと舞う桜の優しい香り。
普段使いもしやすいし、たぶんすぐ無くなるだろう。
その数日後、調子を崩して自力で動けなくなっていたから、(本人は「仕事の匂いだって覚えちゃうとやだから」って駄々こねてたけど) 服の袖元に容赦なく使って外出させた。
結局、昨日一日無理した分のツケが来て、今日はオレが手伝っても起き上がれずに一日休んじまったんだけどな…。
今朝、オレの体、下半身が無くなっていた。
泣きはらしていたあいつに、床に転がって動けなくなっていたオレ。
秋良には随分心配かけさせて、取り乱した声で何度も、何度も抱き締められていた。
体は、数時間後にゆっくりと戻ったが。
もうダメかもしれない。
もうとっくに寿命、みたいなモノは過ぎてるんだろう。
あの時から。
それでも、オレは、消えないと約束した。
お願いだから、もう少しだけ…もう少しだけもってくれ……。
