ある日、魔王が僕の元へやって来て
「創造神に贈り物をしたいのです」と言って、僕が代わりに渡すよう、贈り物を手渡した。
「僕から渡す必要がどこにあるのかな」と聞くと
「私(わたくし)から贈り物を捧げては、意味がないのです」「どういうこと?」
「あなたが、創造神に大層気に入られておられることは存じております…」
「ですが、あなたは創造神の大いなる見技に共感なさっていないご様子です」
「分かるの?」ぼう、っと視線を魔王に向けて
「目を見れば分かりますよ」「とても、怯えた目をしている」
「ですから、あなたから贈り物を捧げるのです。そうすれば、あなたの心に寄り添われるようになり、次第に私達住民達のお気持ちにもお気づきになられるでしょう」
「本当かな…」
「ええ。もちろんですとも」
「僕が渡して『いらない』って、言われないかな」
「ご安心ください。創造神がお造りになられた住民からの贈り物とお気づきになられれば、お断りになられる理由は存在しないでしょう」
そう促されて、僕は君に手渡した。何も言わずに渡したので、僕が用意したと勘違いしたのかもしれない。
「…おいしいパンね」
「そうなの?」
「うん…とても」
美味しいと言ってもらえたことを魔王に伝えると、魔王は次の贈り物を用意した。
次の日、君に手渡しに行き
「きょうもよういしてくれたの?ありがとう」
「…どういたしまして」
僕はその日初めて、君から感謝の気持ちをもらった。
けれどそんなに嬉しくはない、用意されたものを渡しただけだからね。
「けほっ…おいしいミルクね」
「そうなんだ」
「うん…とても」
創造神が少し苦しそうに飲んでいる様子を見て、違和感を感じたが
秋良は何も言わなかった。
次の贈り物を用意して、次の日渡しに行き、そんな日が何回繰り返されたある日。
とうとう創造神は地に伏せた。
「げほっ…げほっ…」
「どうしてこんなにくるしいか、わかったわ…。このおくりもの…、“ぞうお”でできてる……」
「あきらにもたせたのも……、げほっ。わたしがゆだんするって、しってて…!」
「あなたのしわざね。まおう!」
その言葉を聞いて、ニタァ…と嗤う、男がいた。(柱の影)
「神と言えど子供。知らない事は多かれ少なかれあるものですよ」
真の姿を現した魔王は、二人のそばへ近寄ってくる。
秋良を通りすぎて、秋良の横顔が移る。(え? って顔で魔王の方へ振り返る)
地にうずくまる創造神の前に、魔王が立つ。突然、創造神の細い腕を掴み、
「う…っ」
強引にうつ伏せにする。
そして、その姿をじっくりと見下ろした。
「まあ、」(笑う口元をアップか?)(それとも魔王が神を見下ろす図?神が魔王に見下ろされる図?)
「こうなってしまえば、人の子と大差ないですね」
(ここ、何を-- って顔の創造神の体を写す)
帯状の紋様のようなものが幾つも浮かび上がり(小さなコマ)、羽の周りを回り出す。抵抗することが出来なくなった創造神の、
「………がっ!」
背をめがけて、大きな鎌で斬りつけ始めた。
魔王の背が見えるのみで、秋良からはその儀式の様子は良く見えない。
「あ゛っ…あ゛!!げほっう゛、あ゛」
茫然と立ち尽くす秋良だったが、思わず足が出て
「やめてよ」
魔王のマントに ぐっ、と しがみ付いた。
「ここでやめては意味がありません」
「魔王…でも……」(ここのコマちょっと溜める)
魔王は腕を背の方へ勢いよく振りかざす。禍々しい紋様と共に、何かが手の平に浮かび上がった途端、弱気な秋良を柱へと突き飛ばした。
呻いて俯く秋良。だが、手を地に押し付け、立ち上がろうとしていた。
「おや」「まだ分からないのですか」
力が上手く入らず、ふらふらとこちらに歩いてくる秋良。
「知能のある子供だと、思っていたのですが」
「うっ…」
「あ゛あ゛!!!」
何かの音と共に創造神の絶叫が聞こえた。秋良の足は止まってしまう。(ここで流れが変わる きっと、)
見えてしまった。
ドクン。
綺麗に拭き取る鎌が見える。
ドクン。
胸がとてつもなく痛む。
ドクン。
「ア…」
ようやく口に出せた。が。秋良の目は既にもう、大きく見開き、固まってしまっていた。
「あなたは私に利用されていたのです」
大きな鎌を、動けない秋良に向けて言い放つ。
「私は神を排除し、まもなくこの世界の支配者となります」
「権力を振るい、世界中の全てのものを脅かす存在となるでしょう」
「ですので」
「“秋良(あなた)の役目はここで終わりです”」
肉体が切り裂かれる音と共に、斬撃が走る。
その小さな体は、糸が切れたように、地に投げ出された。
その途端、低い絶叫があがる。
地に伏せる魔王を見下ろし息を吐き、鎌を握りしめた片翼の創造神がいた。何度何度も、振り下ろす。片腕が無くなったところでやっと口を開く。
「よくもやってくれたわね」「ぜったいにゆるさない」
創造神は力を使う。荒々しい世界に強い風が吹き、空間が歪み、渦ができる。
「“まおうのなをはくだつし、はんぎゃくしゃとしてくうそうせかいのはざまについほうするわ”」
「くく…無駄な足掻き…です…」
「うるさい」
空中に吸い込まれる男の体と、追放を済ませた創造神の後ろ姿。
「さて」
鎌の棒の先を地に当てる。ひゅーっ、ひゅーっ、と 細く息を吐きながら 一歩一歩、前に歩いていく。
「けほっ…あきら、まきこんでごめんね」
「もうおわったから、だいじょうぶだよ」
黒い血のようなものにまみれた子供に声をかける創造神。鎌を地に落とす音が響く。
「あきら…?」
先程まで倒れていたはずのそれは、何故か両足で立っていた。黒い影が子供の身体を覆い、禍々しい気を発していた。そして、それは口を開いた。
「秋良は役目を終えたよ。立派に役目を終えたんだ」
「…どうして?“あなたはあきらだよ?”」
創造神は、分からない といった顔で言った。
「ああ…そうやって…。君はいつもそうやって…自分の価値観だけで他人の役目を決めつける」
「僕はたった今、生まれ変わった」
「だから、これからやらなきゃいけないことがたくさんあるんだ」
「手始めに……君を」
「“空想世界に大いなる力を振るっていた神を……排除しようか”」
「“僕が、空想世界の支配者になる。権力を振るい、空想世界中を脅かす存在になるよ”」
風が吹き荒れる、魔王城の頂上でそう宣言する。
黒いマントをたなびかせて、空想世界を見下ろす魔王の後ろ姿。
「…しまらないなあ。君が勝手な事を言うからだよ」
(どうして?あなたはあきらだよ)
「秋良は、立派に役目を終えたのに」
黒いマントが影になって消えていく。そこには悲しい目で、一人空想世界を見つめる子供の姿があった。
「僕は秋良(何もできない役)のままだ」