思案

「えー!なんでダメなの~!!」

屋敷の玄関で、レイカは叫んだ。
玄関、部屋の入り口に立つ秋良は、魔王城門前に立たされているであろう男の姿を思い浮かべ、困惑しながらも諭す。

「あのねレイカ……敷地中に部外者を入れられると困るんだよ……防犯上……」
「カレシだから部外者じゃないし~」

「部外者だろう?それに、」

一瞬影をまとって、魔王の力を使う。
(門番から見える景色を自身も確認する。)
「昨日まで付き合っていたと言っていた相手と違う。明らかに信用出来ない」
「バレるのはっや!」

これで何度目だろう。レイカが何の関係もない男を連れ込もうとするのは…、その度に僕に引き留められるのは…。
せめてもう少し上手い嘘がつけないものか。そう思い悩むのは僕だけではない、レイカは悪魔一の問題児として魔界でも有名だった。

影をほどき、秋良は成長しないレイカを見て、ため息を付いた。

「はあ。見たところ魔界の住民ではないし…。尚更、こちらで面倒を見ることは出来ない」

そう言ってドアに手をかけた。視線でレイカに外に出るよう促す。

「ええー!いーじゃん!」
「ダメだよ。見送ったら、寄り道せず真っ直ぐ帰っておいで」

むっ、と顔を膨らませて秋良を睨む。
観念したのか、勢いよく扉から飛び出した。

「もーあきらちゃんのかほごー!!」

「過保護…か……」

魔王の役を譲ることはできない。だから、レイカを寛容することはできないが…。
何もできない秋良が、ただ、彼女達にお節介を焼いているようにも見えて、思い悩む。

夜、屋敷の窓際で休む秋良に近付くユサ。
レイカの様子がおかしい、と声をかけてくれたユサに事情を話した。ユサは常日頃、レイカの事を案じていたから、「また…そうですか」とちょっぴり呆れつつ困った顔をしていた。

「うん。その自由奔放さに困らされているのは、君だけじゃない」
「…すみません。お手数をおかけして」
「君が謝ることはないよ。先日、レイカに説教をしてくれていただろう」
「はい」

「”私達悪魔”は天使から転生した身であり、以前と比べ物にならないほど解放された個性を持つ……その点は皆さん、自覚しているのですが……」
「うん、それも覚悟の上で契約をしたんだ」

真剣な表情の秋良と、それを見つめることしか出来ないユサ。
視線に気付き、ふっ、と力が抜けたようにユサを見る秋良。

「いや。君はもう少し我が儘を言ってもいいのではと思うけれどね」
「…は、はいっ?」