追想

涼春との戦闘シーン
(空想の時よりも、少し手前から始まる)

***

魔界の広場の中心で十数の悪魔達が、彼女を取り囲み、襲いかかっている。
が、彼女は手を振るって風を操り、容易に近寄らせない。
攻防が続く様子の最中、僕は、その姿を見ていた。

記憶の中の君よりも、背丈は高くなっていて。
より美しく、大人びた姿の少女へと成長していた。
そして、その背中には翼を1つだけ携えていて…。

過去の君ならば、数多の群衆でも容易に蹴散らしていただろう。

神と悪魔。両者が倒れることなく睨み合っている、この状況が意味するのは。
神としての不完全な姿と力を持ったまま、この世界に舞い戻ってしまった、ということだ。

「片翼を携えし大いなる者よ」

群衆の前に出て、言い放つ。

「君は、消えるべき存在だ」

あの時。
別れを告げたのに。二度と出会わぬよう祈ったのに。
僕と君の繋がりは、切っても切れない糸のように手繰り寄せてしまった。

もはや、これまで。

覚悟を決める。
彼女を大きな炎の円で囲い、禍々しいほどの闇の炎を向けて、放つ。

最期は。
僕の手で葬るんだ…。

「うおおおおおおおおおおっ!!!」

天から降って来たのは。
先程の、少年……!!

逃げた……はずでは……!?
予想外の登場に驚きに、咄嗟に出そうになった声を、自制した。
少年は炎の円内に華麗に着地し、少女の前に立ちはだかる。
放たれた闇炎を、手から発した風の渦で受け止め、
キッ、と僕を見据えて、大声で言い放った。

「たしかに生意気だし、全然人の事を分かってない時もある!」
「けどな消えるべき存在って…!何様のつもりだっ!?」

「オレの女神様に嫌がらせすんじゃねぇ!!」

ああ…。
その名は。その姿は。
(ドキリとさせられ、一度目を閉じる。)
少年、君は…。
彼女を自らの神様として、本当の神様として、慕っているんだね…。
そして、彼女を。庇うんだね。
(再び見開く。)

「あのね、これは嫌がらせじゃないんだよ。正当な処罰さ」

「そんな。女神が何をしたって言う…」「!!」
「女神の過去を知っているのか!?」
「もちろん」

何も知らない、少年に。
背負ってしまった、少女に。
告げねばならない。
僕の、この手で。この力で。
世界から彼女を、君もろとも、消し去るんだ。
これは、闇の力に支配されてしまった僕の。
宿命だ。

「彼女は空想世界を創った張本人」
「自らの手でこの世界を壊した、罪人さ」