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*空想世界の旅を終えた二人の話。

ベッドの布団にうずもれている少女。暗い暗い部屋のなかで、ひとりでに笑い、話し始める。

「やれば、できるもんだね」

その声に覇気はないが、なにかをやりきった後のような、誇らしげな声だった。

「……」

一方で、その声に耳を傾ける、姿の無い人物がいた。少女のすぐそばで、同じくじっとしているように、何も発さずにただただ静かに聞いている。

あのときの二人は。互いに喧嘩しながら。
目に見えて体力も気力も落ちていたのを知っていた。もうどうすることも出来ない中、絶交をしかけ、さ迷った。互いに認識出来ず、声も届かなくなった。

そんな中、空想世界の夢を見たのだ。出会い、旅をし、仲直りをして、そして、別れる、その夢を。
(ここは二人で寄り添う構図)

その一連の未来のビジョンが見えた時。(涼春も見ている、突然よろよろ起き出した××をじっと見ていた)
××は、とうとう空想世界第1話を描き始めた。
以前とさほど変わらず、寝たきりで。叫び通す夜もあった。そのときは最高学年であったため登校日の頻度は落ちた分無理矢理登校を強いられていた××であったが。嫌気が差した反動で、持てる力を全て使ってやるべきことから大胆に逃げる選択をした。それは、現実逃避でもあったが、××は、いつしか「空想世界を描くために残りの人生を使おう」と後ろめたさがありながらも思うようになっていた。「描くために生きて、そしてこれを描ききって物語が完結したときは自分も死ぬ。そして全てが終わる」それが空想世界の、最終目標になっていた。

そして、舵を変えてから 空白の日が続いていく……。

描いては消し、描いては消しの日々。
何度も何度も確認をして、辛くて寝て、無理矢理起きて、描き足していく。

こうなるともう、誰の言うことも聞かない。うるさい声は全て、聞き流した。嫌な幻聴も、叫んで掻き消した。自分の思った通りに体が動かないはずなのに、そのときの自分の体は、物語を描くために、懸命に動いていた。

「……」

やるべき事から逃げている、叱るべきだとずっと思っていた涼春は。
「自分が悪かったのだ」と嘆き崩れる思いを募らせていたのも忘れて、じっと、空虚な目で、夢物語の続きを、続きが脳内に描かれていく様を、現実の紙に刻むように描いていく様を見た。

そうしてしばらくしたある日。
堕落しきった自生活に一度リセットをかける出来事が起きた。
休学だ。

ギリギリの登校をしていたおかげで卒業に関わる以外の必要な単位は取れていたため、幸いにも次年度の半年分を休むことができたのだ。
久々に、進級以来に顔を会わせる馴染みの先生と面談をして、休学中や復帰後の計画のあれこれを話し合って決めておくことになった。

見慣れたはずの教室は、長期休み中のためか どこも窓の白いブラインドが閉まっていて、全く人気を感じないほどに薄暗く、ガランとしている。廊下奥の窓からは、春らしいあたたかな光は差しているのに。××は、それらが何だか落ち着かない。

「……! 涼春……」

脳裏に気配を感じる。それは、久々に聞いた彼の声だった。

「オレもいるから、大丈夫だ。行ってこい」

そんな怖くないだろ、とそっけなく声だけを残して、頭の中の、声の届かない場所へ消えていく。

「うん」

……

「先生……、優しかった」

「うん。あの先生はいつも優しかったから、大丈夫だと思ったの」

「…………」

不意に心の声が止まる××。足はふらふらとおぼつかないが、速度は変わらず帰るべき方向へと向かっている。

「…………私、人に心配をかけた挙げ句こんなに休むことになって、申し訳ないな」
(ここ適当な背景。駅とか。風景写しといて)

「…………休んでいいんだぞ」

「今までの生活をっ――、整えるための期間なんだからな」
「………………。うん」

そしてようやく、空想世界第1話を描き終わった。
初めての、たった20pほどの、手書きの物語。

(冒頭の続き)

「さっきのは。ほんの、始まりに過ぎないけど」

「私、早く続きが、見たい」

「続き。描ける、かな」
「……あぁ」

「描けるさ」

だが。ここからが、本当の空想世界の戦いの始まりだった。