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気が付くと、いつもの薄暗い部屋の中にいた。

あいつは--、昼間見た時と変わらず、布団にうずくまって眠っている。

オレは目を閉じて、また白い世界へ入って行った。

風がない。温かくも寒くもない、嫌なほどに何も感じない空気が辺りを支配している。
視界に映るもの全てが真っ白な世界の地や空には、ひび割れた空間の裂け目や瓦礫の山が無数にあり、塊になれなかった破片は空中に飛び散っている。

「………」

辺りを飛び回るが、形の残っている何かは見当たらない。白く、砕けて、元は何だか分からない物や破片しかない。
窪地になっているところや影になっているところには……。

黒い、黒い何かがうごめいている。やつらを見ない日はない。すかさず近づいて手を振り下ろして、地面に打ち付けるように消していく。毎日、毎日、黒い何かと追いかけ追いかけられてを繰り返しているいる。いつからこうだったのか、もはや覚えていない。いつになったら終わるのかも、分からない。それでも、こうしてこの場所を……守るのが、オレの……。
見回りながら気持ちが混濁していって、それでも身を壊しながら黒いそれを消していっているとき、まだオレが出て行っていないのに、突然逃げて行った黒いやつらがいた。思考が遅れていて、自分の影に被さって、大きな黒い影が地に映っていた。

「………なっ」

振り返ると、目の前には大きな影の化け物が落ちて来た。振動と共に煙が舞い、瓦礫ごと粉砕していく。

咄嗟に退いて、攻撃するも、全く通じない。オレが避ける度に、欠片だった世界は黒く大きな物に押しつぶされて、粉々に、壊れていく。

避けながら。思った。オレには、もう、どうにもできない。

身が遅くなって、叩きのめされる。低く唸った、起き上がらなきゃいけないのに。
黒い影が上から降ってきて。

(このまま。黒に、飲み込まれても、いいや……)

大きな衝撃音と共に、煙が立ち込めた。

何かの音がする。飛んでいくような。風切り。
なびく風。体に当たってそのままどこかへ飛んでいく。
勢いよく目を覚ますと、そこは円盤の上だった。

(たす…かった…のか……?)

疑心に思いながらも、中に入る。
中は楕円の壁に囲われた、どこを見てもシミ一つない真っ白な部屋だった。
部屋の壁1面を占める大きなパネルと、細長くて五角形の棺桶のような形の機械以外は何もない部屋だった。先程のパネルには、この部屋の外に広がる世界の様子が映し出されていた。辺りを見回してみたが、それ以外に目星いものは何も見つからなかった。

「何だ、これ…。でも、どこかで……」

点滅するパネルに触れようとしたそのとき、どこからともなく声がした。

「おおっと。それに触らないでくれるかい?」

動くな、と命令されているような威圧感のある、けれど幼い、少年のような声だった。オレは、一時停止のように体を止めて、姿の見えない相手の出方を伺う。

「ここは乗っ取らせてもらったからね」

パネルが怪しく光り、点滅で形どられた口が大きく表示される。

「管理部屋……!どうしてここに!?」

「言っとくけど、君達がほったらかしてたから再利用させてもらったまでだよ!いやあ、無人だったからあっさり簡単塩味だったねぇ。」

「」

「お前が秋良……だって……?」

「君以外の人物はどうしたんだい?まさか、僕が偽物だとでも言い出すのかな?だいたい、秋良とだって意思疎通が取れていなかったじゃないか」

「………………ッ」

信じがたい光景を目の当たりにして、ついカッとなったオレはパネルに殴りかかった。が、

「暴力反対~!眠ってなよ。白野郎」
「ぐっ…………」

機械から出た大きな影の腕2本でガシリと組み伏せられた。立ち上がろうと腕に力を入れてもびくともせず、より圧迫するように床に押し付けられた。力の差は歴然だった。

「…………やってもらいたいことがあるんだよ。へへへへ。ま、そんな調子じゃ、食われて終わりだな。つまんないの」

「オレは協力なんて……」

「ぐあっ!!」

体を拘束されたまま無理矢理床をすり抜けさせられて、部屋の外へ体が放り出される。ガッと衝撃が体に走ったと思えば、上に引っ張られ、ぐらぐらと危なっかしく揺れて宙づりになっていた。衝撃のせいで揺れた頭がまだおかしくて、呼吸が荒い。体は次第に揺れが収まっていき、自由の利かない体は自身の重みで下へと引っ張られる。歯を食いしばって、なんとか正気を保とうとする。影は声色を変えて、人が変わったようにオレに敵意をむき出して脅してくる。

「おい、おい。おい。今更口答えか?ここまで、戻、し、て、やったのになぁ。見ろよ、あれ。お前の食べ残しだよ?」

う、小さくと呻きながらあれ、の方向を見る。白い瓦礫でガタガタの地平線の遥か遠くに黒い影が数体いて、ガシガシとぶつかり脆い亀裂の入った壁を壊している。

「…!!」
「ああ、全く。暴れんなって。余計食い込むし、痛いよ?あっ…あとさ、振り払おうとしたら振動でこの部屋、底抜けるかもしれないし、なー」
「……ぐッ」

成すすべもなく、眺める事しかできない。諦めと共に顔を伏せた。

「あはは!最高!!お前こういうの弱かったんだなあ!?何にも言えなくなっちまってんの!!」

「……………」
「あはは!はははっははっはは、あ」

掴んでいた腕の中から軽い袋がフッと風で煽られるように、体が前方へ飛んで行く。呆気にとられた黒い機械は、握っていた手をゆっくりと見た。

「体を破って逃げたの……?へぇ。化け物」

「まっ。どうせ、無意味な抵抗だけどねぇ」