あれから、一瞬だったか。はたまた長い時間が経ったか。気が付くと、オレは紙切れのように、あるいは海の藻屑のように、食い尽くされていて、バラバラに散らばった体だったものは動けなくなっていた。そして1つの黒い影が立っていた。そのてっぺんがニタリと笑い、無惨な自分を見下して言った。
「久しぶり?よく生き残ってたねぇ」
(…………誰だ………おまえ……)
「ひどい面してるな~~。あっ嘘嘘、もう顔すら残ってなかったねあはははは。って!人違いとは言わせないよ?!えーと……!……うん?違うな。ごめんね、お前の事なんて呼んでいいかわかんないから改めて聞くよ。…俺の事覚えてる?」
(…………)
「…ま、知らないとも言わせないけどさ、真っ白しろすけ」
(…………)
「さてさてさて!消え行く前の突発突撃ワンモワチャンスーーーー!」
「取引のお時間だよ!」
(…………)
「内容は超!シンプ~ル! “俺に協力しろ。” そうしたらその姿、何とかしてあげてもいいよ」
(…こと、わる……。そん、な…モノに……なる……気も……手を、貸す…気も……ねぇ……)
(……ぐっ……)
腕があった辺りを踏みつけて左右にねじ伏せる。
「オイオイオイオイ勘違いするなよ?」
(う”……あ”っ………ぁあ”!……)
「お前にはもう後はないんだぜ?そして選択肢はたったの2つ。今ここでお前が消えてあれが後追いするか、それともお前が生き狂ってあれと心中するか。だが俺達が今どんな選択肢を選ぼうが同じ絶望という終点に着くんだよバーカ!!ガキみたいにわーわー喚いて何も出来ず変われず頭かってーまま即死にてぇか大人の対応してから後悔の渦に呑まれて未練たらたら呻きながらじわじわ死にてぇか聞いてんだ分かったか真っ白しろ野郎」
(………ぁ……いつ…が…ぁ……、死…ぬ………?)
「そうだよ?分かんなかった?考えたことすら無かった?ま、そうだよね。あれは、これまで世界がどーなろうが揺るがない、唯一の存在だったもんね」
「でもそれだって、こんなボロボロに綻び果てたじゃないか。お前も、あれも、世界も。ほんのちょっと思いっきり踏み潰そうと思っちゃえば簡単に呆気なく壊れる。けどお前も世界も白いまんま。潔癖すぎて正直くそつまんない。だから完璧に闇に貶めてから破壊のパレードを楽しむ。お前は力を取り戻して最期の未練にもう一度だけ挑める。すげーいい取引だと思わない?さぁどうするの?」
(…………と、り…ひき……しろ………)
勢いよく頭を踏みつける。
(あ”あ”っあっ…あ”あ”あ”!!!)
「頭下げろよ薄っぺら。自分を何様だと思ってんの、本当気に食わない。後悔も出来ずに消してやろうか?ホラ。早くしないとお前は壊れるし、”あいつ”……ひとりぼっちに…させていいんだね……?」
ハッとした顔になる。
(………た……の…む………きょ…ぅ……りょ…く…………さ…せ…て……く……れ……)
「……ちょっとは立場が理解できた?」
ふう、と息をついた黒い影。ゆっくりとしゃがみこんで顔だったものに手を近付ける。
「癇にさわるけどまーいいや。俺もお前がyesって言ってくれなきゃ正直、困り果ててたしね」
「いい?一回しか言わないからちゃんと聞け?今から俺様がちょちょっと世界に手を加えてちょろーっとだけ時間を巻き戻すよ?いい?本当にちょっとだけだからな、マジでボロボロすぎて戻しきれねーくらいなんだから戻った後がちょっぴり歪んでても泣いて感謝してから協力しろよ」
(………)
もう力が残っていない。
何の返答もない。
それでも、黒い影の決断は変わらなかった。
「……今みたいに。力ずくでかんゆーしときゃ良かったよ」