暗慈

※古いので書き直す

女神視点の空想世界話を涼春視点にした話

***

「ハルくん、いいニュースが入ったよ」

本当に少しだけ嬉しそうに

「何だ。またオレをからかうつもりか?」←ここギャグっぽく
「君が元いた世界に戻るてがかりが見つかったんだ」
「…へ、マジか!?」
「確証は持てないけれど、有力だ。世界の狭間に詳しい魔女がいてね。ようやく情報を引き出せたよ」
「これなんだけれど…」

古びた一冊の本を出す

「なるほどな…」
「世界間を行き来できる、空飛ぶ大きな扉か…。またえらくファンタジックな装置だな」
「そう、まさに装置なんだ。…僕もその絵を見るまでその扉の伝説をすっかり忘れていたけれどね」

「それ で、扉を動かすためには4つの石と彼女の力が必要なんだ」
「4つか….今3つ持ってるから…後1つだな」

手のひらに出して見ながら

「そうだね」

「後1つはどこにあるんだ?またすげぇ強い種族が住んでいる地域か?」

「最後の石は…どこにもない….」

「風の石だけ、世界中のどこを探してもないんだ」
「な…」

「ハルくん、そう気を落とさず。先に、石について話をする必要があるよ」

「この石は四原石と呼ばれていてね。元々は石の形ではなく、彼女の力そのものだったんだ」
「彼女が大昔に世界を壊しかけたことがあって…。あ、うん、その話は今度じっくりしてあげるつもりだ よ。それで、その時に力を、崩壊したそれぞれの地域に分け与えるために石になったんだ」
「そして、その石は力、生命の源となり、守護神が生まれた。守護神はそれぞれの地域を守ることで、世界 の秩序を保った。彼女がいなくなった後の世界が辛うじて存在できていたのはその石が力の源として あったおかげとも言えるね」
「そんな大変な話があったのか…」

「土の石は土の神プラントが、火の石は火の神ヒナが、水の石は水の神水銀が守っていた」
「…?その流れでいくと、風の神が持ってるんじゃないか?」 「そう思うだろう。けれど風の神を名乗る空想住民を、僕は見たことがない」
「それだけ大きな存在が、誰にも知られていないというのは変な話だ。風の石も、存在しているならどこか で噂になる。おかしいだろう?….そもそもの話なんだけれどね、君達の他に風の力を持つ住民を見たことが ないんだ」
「そういや、そうだな…」
「風の神という存在は、元々いないか、それ自身が風の神であることを認識していない….」
「石もきっと、石の形をしていない。力そのものが存在しているはず….」
「風の力を宿し….自らが風の神だと自覚していない強い存在…」
「それって….」
「うん。あくまでもこれは、僕の憶測だけれど…」
「彼女とハルくんが、風の石となる力を持っている」

「…オレは違うだろ」
「だと思うよ。元々、風の力は彼女のもので、君はその力の半分を譲り受けた」
「だから僕は、彼女が風の神になるための、最後の試練を与えるつもりだ」

「一つ、伝えておかなければならない事がある」
「彼女が完璧な神になるということは、君の持つ全ての風の力を彼女に戻さなければ達成できない。力を無 くした君は、この世界との繋がりを無くし消えてしまうだろう。試練後、扉を開け、すぐにでも世界に戻る 必要がある」
「は…?待ってくれ。だ、だからどういうことだ?」
「君が彼女を想って空想世界に残るか、迷わず元の世界に帰るか」
ドクン

「君の性格はよく知っている…。彼女を選べば、君は、自分を。自分の世界を捨てる結末になる」
「自分を見失うことのないよう、よく考えておいて」

部屋に戻る涼春
女神が部屋で倒れているのを見つけ、急いで抱き起す。

「おい」「女神」「女神っ!」 「大丈夫かっ」
「う………うう…..」
「女神…」
「もう怖くないぞ。オレがいるからな」
「だから安心してくれ」
「大丈夫だ」「もう怖くない、怖くない。な?」
「……うん」

「めがみん、ど、どしたの!それ…!」
「レイカ…?!急いで誰かを呼んでくれ!」
「わ、わかった…!」急いで駆け出すレイカ

「すず…はる…」
「どうした」
「すずはるは…どこにも……..いかない…わよね…..」

目を見開いて、下を向く涼春

「…まだ、」
「まだ、そんな事を考える時じゃねえ。…オレはまだ、お前を笑顔にしてやれてないんだぞ」

「…それは、」
「…..ずっといてくれる、….ってこと……..?」

(時が、止まってしまう)
(二人の幸せを告げていた時計の音が、心地よく刻んでいた小さな音が、止まってしまう)
(止まるな)
(止まらないでくれ)
(オレにはまだ)
(最後を選ぶ勇気がないんだ)

無言で強く抱きしめる涼春 もしかしたらそうなのかもしれない、って顔でゆっくり、そっと抱き返す女神
後から魔王が駆けつける
部屋にいる二人を見て「……」辛くて直視できなさそうな顔