正直者と嘘つきの僕

夕暮れに包まれる花畑で、秋良は創造神の隣に腰かけていた。でも、その目は一向に、創造神の顔には決して向かない。
創造神もまた同じく。今日は秋良に目を向けず、遠くに目をやっている。なびく風に吹かれながら。ゆっくりと陽が沈んでいく。その度に時折咳き込んでいたが、唐突に一人で話し出した。

「…わたしね」
「わかってるの。みんなに、こわがられて、きらわれてる、ってこと」
「わたしが、あんなことばかり、している、から」

前を向いたまま、目を見開いている秋良。
ゆっくりと創造神の方を向こうとして、その前に声だけで制した。
足をひょい、と地面に降り立たせて、秋良の前に出る少女。

「いいの。いつからかわすれちゃったけど。ずっとこうなの」

「だから。あきらが。にげずにそばにきてくれるだけで。わたし…げほっごほっ」

「わたし、うれしいなぁ」

息を詰まらせながら言い直したそれに、目を細めてしかめた秋良だった。

ふと、籠を手で掴み、歩き出す。籠を揺らしながら、花畑から覗かせた飛び飛びの石を飛んでいく白いワンピース。その後ろをついていく秋良。
籠を持ち主に返さなきゃいけないから着いて行っているだけで、別に君を追いかけたい理由なんてない、なんて顔をしている秋良。

(君がそんな事を言うから)

大して遠くない、展望台からすぐそこの花畑の中に二人は入って行って、
「ここにすわって」
「何?何なの?」

落ち着かない様子の秋良のそばに、籠を置いた。

「いいから。いいから」

「おれいをしようとおもって」
「……」
「……ううん。わたしがしたいから。めいわくかもしれないけど」

「……」

「どう?とっても似合う」
「………」

「似合わないよ」

その声に、寂しそうに笑う少女。

「あきら」

手首を差し出すように見せる君。
その腕には、たゆんと垂れる結びかけの花があった。

「あきらにおねがいしたいの」

「いつもの天使に手伝ってもらえばいいのに…」
「できないよ。ひとりじゃできない」
「どうして僕が、君に手を貸さなきゃいけないの」

はあ。とため息をついて。
小さな腕に向かって両手を近づけ、見下ろす秋良。
難しそうな顔をしてここがこうで、ここがああだよ、と言い合いながら、少しずつ編んでいく。

「できた!」
「………」

とびきりの笑顔ではしゃぐ君から目を背ける。

「ありがとう。あきらは--」

 

 

(※伏線のシーン、3~4コマ 痛々しいほどに流れていく)

 

 

「『秋良は優しい子だね』って」

「君は決まって、そう、言うんだ」

どこか深く、暗い場所で囁く、青年の声がする。
だが、その声は、ひどく冷めきっている。

「もう、君の言葉を聞く必要は……無くなったんだ」

(僕は、たしかに魔王になった。なのに。)

(君が「秋良」を押し付けるから)

(僕はどうしたらいいのか分からなくなるんだ)