椅子に座るツノの生えた悪魔の後ろに立ち、その紫色の艶やかな髪を結んでいる緑髪のポニーテールの悪魔。
「ねぇ」「ボクとキミ、どっちが先に産まれたんだと思う?」
「残念ですが、存じておりません」髪を解かすか結び続けながら 伏せ目で
「ボクも知らなーい!正直、そこはどっちでもいいよね!」
「じゃあさ」「どっちが先に魔王に認められたと思う?」
「…………それは「ボクだよ!ゼッタイ先!」詰まらせたような表情の後ろの悪魔と、怖いくらい自信満々の座った悪魔
「……」
「だから名付けも、ボクが一番最初に付けてもらうんだっ!」髪を結び終わった途端、ガタンっと椅子の音を立ててかけていくツインテールの悪魔。もう一人の悪魔は、ぼうっとした顔で固まったまま、その去っていった先を見ていた。
***
私は、他の悪魔達よりも個性が弱く、悪魔達に馴染めずにいた。いつも魔王城内の壁の側に立っていて、そわそわと汗を流して、虚ろな目で周りの様子を伺っていた。伺うだけで、足がでない。声が出せない。自信の無い悪魔だった。周りの悪魔達は盛んにおしゃべりをして、仲間の中で役割を見つけきゃあきゃあと動いていく。そんな中でも一際悪魔達の注目を浴び、中心に立っていたのはあのツノの生えた悪魔だった。彼女が、他の悪魔達と共に魔王に引き連られ探索に行くと言い出した時、私はやっと、仲間達に置いていかれたのだと自覚した。「わ、たしは……、残ります……」となんとかか細い声で答えた。騒がしく出ていったのを見て、力の入らなくなった膝が床に崩れ落ちた。
「すてられる……くわれる……すてられる……くわれる……!!」
何故、そう思ったのかよく分からなかった。幾度も暗示のように繰り返しつぶやき、がくがくと震えながら周囲を見渡した。私は魔女から奪い取ったという、ほうきに目をつけ、恐る恐る手をかけた。
だいぶ時間が経って、探索に出掛けていた悪魔達が魔王城へと帰って来た。ぞろぞろと部屋の入り口に押し掛けた悪魔達は、まずその状況の変わった部屋を見て、部屋の中央から少しずれた場所にほうきを手に、立つ悪魔を見た。
床やテーブルに散らばっていた布の切れ端などの屑物は跡形もない。家具類は綺麗に配置され直され、テーブルには花瓶が置かれていた。必要な小物はそれぞれ種類別に分けて並べられていて、その正確な配置は棚に飾られているかのようだった。
頼りげのない瞳でさ迷わせていた悪魔が得意としていたのは掃除だったのだ。その光景を目に見張り立ち尽くす悪魔達と、魔王。その塊の中で、一歩前に出てきたのはやはりあの悪魔だった。
「キミはそーいうのが得意なんだね!」
ニコニコニヤニヤとほうきを持つ悪魔を眺めている悪魔達。何故か、扉から動こうとしない。
「……あ…、あ、の……」
「あのねあのね!」「悪魔っぽくないねー!って言ってたんだよぉ」突然言われて、きょとん顔の悪魔
「早く持ってきてー!ああと!あれもー!」
避ける余裕もなく、すかさずその怯える背中に回り込んだ悪魔。
ツメで器用に摘まんだそれを悪魔の頭に持ち上げ、布を巻き付けた眠たそうな悪魔が持ち上げた鏡で映す。
頭からちょこん、と白いリボンが空を向いて覗かせている。落ち着かない様子でそわ、と鏡越しに白いリボンを見る私に、彼女は上から声をかけた。
「んっ!」「ツノだよ!」「これで、ちゃんと悪魔になれるね!」
「……はいっ」
ポタポタと涙を流す私。別の悪魔の手によってポニーテールに結んでもらい、真新しい悪魔の服ももらった。その横で、彼女も服に着替える。
「ねーねー!お揃いにしてっ!!」
ご機嫌な様子でいつもより丁寧に椅子に座り、仕立てた悪魔にねだる彼女。それをすんなり受け止め、私とお揃いだが、少し趣向を凝らしてくれたのかツインテールに仕上げた。
「それ可愛いな~~!アタシもそれにする~~!」出来立てのツインテールを指差しながら仲間達が寄ってくる。
「やった!ボクのが可愛いって!」
「…ふふ」
ようやく馴染めた悪魔達。彼女達の着替えのために一度退室し、その晴々しい様子を改めて見に来た魔王は、どこか上の空だった。
***
「ユサ」「それが、君の名前だ」
名付けの日。真っ先にそう言い渡されたのは、ポニーテールの悪魔。私だった。