沈み行く体…遠くなる息…意識…。
ああ…、最後に出来ることなら…彼の顔を見てから…消え…た…かっ……。
見知らぬ場所で目が覚めた。
「ここは……どこ…だ……?」
夕日が差し込み、部屋はうっすら夕暮れに染まっている。
しばらく部屋の中でぼうっとしていると、部屋に人が近づいてくる足音がする。
こんな時、いつもなら身構えるのだが、僕の体は未だ、強烈なだるさに囚われていた。
うつ伏せの姿勢から動けぬまま、誰かも分からぬ足音の相手を迎え入れるしかなかった。
コンコン。
「失礼しまーす」
ガチャ。ドアらしい物音が響き、開かれる。
「佐ヶ浦せんぱーい、まだ仕事終わりませんか?良かったらオレ手伝います」
そう言った相手の声を聞き、驚いて顔を見上げた。
「………なに…」
相手は影に隠れてまだ顔見えない、が…。
この、声、どこかで……。
思考を巡らせるが、脳内は上手くまとまらない。
「あれ、先輩もしかして昼寝してました?まだ寝ぼけてます?もしもーし?」
「…君は…誰だ…?」
ふふん、と誇らしげな声を漏らした。そして間を置いて、にこりと笑顔を携え、自己紹介をした。
そして、その予想外の勘は、当たってしまった。
「オレは、2年K組の清水 涼春。
“先輩の大好きな人”ですよ」
「……ハルくん…?」
突然の再会に、目を見開く。
「い、一体何が…」
「あーそれはですね。帰りの待ち合わせをしたのになかなか先輩が来ないので、生徒会室まで様子を見に来たんです」
「そのまま寝ていたら夜になってましたよ、良かったですね」
…彼はあの彼…ではないのか…?
僕の見知らぬ情報を早口で伝える、その彼の顔を覗いた。
顔はほぼ同一人物のようだが…。
白いYシャツの上から灰色のパーカーを羽織って…、いつもとは違う黒いズボン…。
何かの機関の服のようだな…。
手元をよく見ると、僕も気付かない内に着替えていたのか、彼と同じような、何かの機関の服を身にまとっていた。
「……ここはどこだ?」
「生徒会室です」
「僕は?ここで何をしていた?」
「…?まだ寝ぼけてるんですか?先輩は生徒会のお仕事をしていたんですよ。生徒会総選挙まで後少しだし、会長の務めを最後までしっかりやり遂げなきゃ…って力説してたの、先輩じゃないですか」
「…ああ、そうだったね…ごめんごめん……」
生徒会会長…僕はここの長で…、この子は僕の後輩…なのか。
「ところで、佐ヶ浦というのは…僕のことかい?」
「…え、そうですけど 先輩、オレに佐ヶ浦先輩って呼ばれるの嫌でした?」
秋良先輩、のほうがいいですか?と、彼は首を傾げながら付け足して言った。
「いいや、そうじゃないよ」
「ならいいですけど…」
怪しまれたか?
こういった事に慣れているとはいえ、言動に気を付けなければ。
にしても、佐ヶ浦…、僕の名字か…。
彼に先輩、と呼ばれるのも変な感じだな……。
「あの、佐ヶ浦先輩、そろそろ起きましょう 下校時間迫ってますし」
「ああ、そうしようか」
彼は、僕の事もこの場所の事も知っているらしい…。
しかし、ここに住んでいる、わけではないのか。
彼の身振りを見て、共にこの部屋を出るよう、せかしてくるのが分かった。
ええと確か。
所持品を探して手を泳がせる。
けれど、どこに置いたのか、そもそも置いてあるかどうかすら分からない。
困り果てていると、彼に指摘され、部屋の隅の机の上から僕の物であろう鞄を掴んで手渡してくれた。
「ごめんね、せっかく起こしに来てくれたのに。まだ寝ぼけてるみたいなんだ…帰り道、案内してもらってもいいかな」
この場所に見覚えがない…これがただの夢ならいいが……。
「いいですよ。あ、帰りにちょっとだけ、ケーキ屋寄ってもいいですか?新作のモンブラン食べてみたくって!」
「ああ、構わないよ」
そう笑う、久しぶりに見る彼の顔は、確かにあのハル君の顔そっくりだ。
どちらにせよ…情報が少ない…しばらくはこの子の世話にならないといけないようだ……。
この子はハル君じゃない、分かっている…無駄な思い入れはしないようにしなければ……。