数日経ったある日。
窓の閉じきった部屋の中に風が吹いた。
その部屋の中、ネジ回しを片手に直しの練習をしていたgateは驚いて辺りを探ろうとじっとした。(人間でいうところの耳を澄ます感じ、研ぎ澄ませる的な)
「ほー。お前さん、分かるか」
玄人の目付きでgateの能力を察する直人と、
「何か、来てます?」
「来てるな…。お客さんだ、この部屋まで連れてきてくれ」
「はい」
返事をした後、とことこと小さな歩幅で扉までやって来たgate。
扉に手をかけようとする前に驚いて硬直してしまった。
無言のgateの目の前で、扉をすり抜け入り、そしてすぐ側をまた、スルリと白い影が過ぎて行った。
直人の仕事部屋の扉もすり抜けたそれはまるで…。
「ゆう…れい……」
かたまったままの体からポロポロっと石が飛び散ちるgateを、直人が大声で呼ぶ。
「何しとる。はよ来い。お前さんのために来てくれたんだぞ」
「は、はい…?」
gateが部屋に戻ると、直人と先程の幽霊が出迎えた。
「………」
白い影の幽霊はなにも発さずじっとgateを見つめると、ふらりと直人の方を向いた。
「ふん。らしいな…」
「……なに。だからここに置いておいたんだ。まーたトコトコ歩かれたらあんちゃんらだって困るだろう?」
「……ああ。む。うむ。」
「へっ。あちらさまのが一瞬だろうに。褒めても何も出ねぇよ」
顔見知りのような会話を一方的にする直人を不思議に見つめるgate。
ちろりと直人がgateを見て、一言。
「ははあ。あんちゃん怖がられてるぞ。その化けの皮、とったらどうだ」
「………」
しばらく間が空いて、幽霊はゆっくりと、自身の姿を現した。
「わっ………」
フードを下ろしたそれは、手も足もスラリと伸びていて、白い短髪に前髪のサイドだけが長く延びている。睫毛が長くてにこやかに笑うその雰囲気から、女性のような印象を受けた。
「子供に見られるといつもこうなんだよな……」
ふぅ、と息をついて、gateに挨拶をした。
「初めまして。直人さんの依頼で、君を助けるためにここに来たんだ。どうぞよろしくね」
「はい……」
「早速だけど、見せてもらってもいい?」
一瞬考え直して、言い直す幽霊。
「ごめんね。私は怖くないから安心して」
「それは怖がらせるときの台詞だろぅ?幽霊さんよお」
「全く、幽霊じゃないですよ。直人さんが勝手にそう呼んでるだけだから。君は好きなように呼んでね」
「…はい、幽霊…さん」
「ん」
そっと、手を当てて様子を見る。
おどおどしながらも、無言で大人しくするgate。
「少し、要素が無くなってますね」
「かもしれんな」
「心が出来てから、どう?」
「……分かりません」
俯くgate。
「感情が分かるわけないだろう」
「そんな事言っちゃいけませんよ、直人さん。既に心はあるんです」
「君の心を取り除くのは、私一人では出来ません。だけど、お手伝いは出来ると思う。必要な術を用意するための時間を、もらってもいい?」
コクと頷くgate。立ち上がった幽霊は直人を見て、
「道具はこちらにあるものを、手術は腕の立つ直人さんにお願いします」
「えっと。それまでは…」
幽霊が直人を見て、直人は答える。
「代価がわりにうちで直しをさせる」
「なら、安心ですね」
「直人さんはね。優しい人だから大丈夫だよ」
子供をあやすようにそっと、gateの頬を撫でて、幽霊は再び白い影になった。
動き出したそれをgateがついていくと、gateの方を向いてふらり、と揺れ動いて(手を振るような挨拶)、すり抜けて行った。