直す屋とGate 4

次の次の次の日。

ガチャン。小うるさく受話器を置く音が響いた。直人がため息混じりにネジ頭をガシガシと掻きながら奥の部屋に入っていったのを見て、Gateはこっそり家を抜け出した。円弧を描くような洒落た配置の石畳に立ち並ぶ家々と街灯の一辺は、終わりかけの夕暮れ色をしている。立ち止まっては、意図的に生み出された僅かな風の音を聞きながら、黒く塗りつぶされた人影の間を縫って表通りを進んだ。
そうしてしばらく進んだ先にあった石畳の小さな橋の上で、人影とは違う、黒い布に覆われた背高のっぽを見つけた。重そうなケースを持った背高のっぽは、Gateが跡をつけていた事に気付いていたのか、進行方向を向いたまま、橋の中央で止まった。

「……何ノ、用かネ」
「たった今、直しを頼みに来た方ですよね」
「……ソノ前掛ケ。直ス屋か」
「お話だけでも、聞かせてください」

「どこカら、話シタものか……」

橋の下を通る街道の脇、二人並んでベンチに座っている。
Gateはどこからでも、と言った。ベンチに座り、半分ほどの高さになった背高のっぽは、おもむろに膝の上に出したケースを開く。中には、ふんわりと丸みを帯びたクッションに沈む2体の操り人形が入っていた。
木で出来たその人形は、体はところどころ欠けて先が歪に曲がっていたり、布が割かれたり破けたりしていたが、元は少々ずんぐりしつつ身綺麗なドレス衣装を着飾る、赤子のような愛嬌のある人形であったことがGateの目にも伺えた。不気味な姿に変わり果ててしまった人形を見て、Gateは胸の奥が痛むような気がした。

「迎エニ行カネばならナイ、者がいル……」
「死者ノ世界を怖ガル者、その使者ヲ怖がル者、運命を受け入レラれなイ者、生ニ執着すル者……終ワリ逝く魂を望まなイ数多の者達と、こノ操リ人形を使イ、対話を続けて来タ。だガ、たッタ一人……、対話にすラ応じズ、今モ孤独に囚わレタままに、なッテいル者がイる。」
「死神トして、人として……。何度壊されても拒絶されても、あの子には絶対に救いの手を差し出さねばならないと考えている……」
「……では、直人さんに、細かく注文をつけていたのは……」
「初めハ、分からナカったからだ。ソレでも、手も金モ、惜しムつもリハ無カッた。……かけルほどニ、拒絶サレ、壊されテしまった。意地になリ、連れて行ク事しカ考えなくなッテいたカラだ。ダガ、ようヤク分かッタ」
「美しい方ガ、人は心を開キ、安心すル」

「……美しい…。分かります。私も、怖かったものが、本当は美しい人で、心が落ち着いたことがあります」
「そうカ。やはリ、間違っていなかッタ。死神ノ薄暗い話ヲ聞いてくれタ、礼ヲ言おウ。」
「……君に、頼めれバ、良かったナ」

「私が直します」

真剣な眼差しを向けられ、驚いた様子で息を飲んだ死神。
その途端、大袈裟な声が響いた。

「ははぁ!」
「ひよっこのくせに。いっちょまえに言っちまったもんだなぁ!!」

2人の間にはパタパタと上下にはためく鈍い金色の機械鳥がいた。背には、どこかでよく見たことのあるネジ巻きがちょこんと立っていて……。

「…!直人さん……!!いつからここに!?」
「ふん。この街は全部ワシの庭みたいなもんだ。っとォ。」

直人よろしく機械鳥は、少しだけ死神に近づき、向き直ってから言った。

「話は全部……聞いちまった。一度引き受けちまったもんは仕方ねぇ。その直し、ワシがやる。ただし、その2体、それっきりだ。次壊してももう絶対に直してやらんからな。」
「……元より、そのツモりだっタ」

よし、と威勢よく呟いた機械鳥は、パタパタと羽ばたき橋を引き返し通りを進んで、何故か勝手に開かれた家のドアの中へと向かって行った。

「直人さん…!他の人の家……!」

Gateがたじろんでいると、すぐさまはっきりとした人の声が響いた。

「何しとる。はよ入れ!ぐずぐずしてると黒い雨に降られちまうぞ!」

本物の直人さんが黄色い光が灯るドアから顔だけ出して、Gate達を呼んだ。