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誰もいない寝室、薄暗い空間の中、体はベッドに沈んでいる。
時計の音がやけに大きく聞こえてくる。僅かに外の明るさが漏れているカーテンの存在感がうるさい。ぐいと手だけを伸ばして、乱暴に締める。
シャーッと音に反応したように、誰もいない部屋のどこからか、声が聞こえてくる。

「おい」 「おい」
「目覚めてんだろ、起きろ」

微動だにしない。

「学校」

布団を被って。
しんと静かな沈黙があって。
「午後の講義には出ろ 今からだともう遅刻確定だ 休んでないで起きろ」
(行かない)
「……」
「学校に行くのはお前のやるべき事じゃねぇのか 早く起き」
(起きろ起きろうっさい!)
(分かってる事を繰り返し言わないでって言っているのが分からないの!!)
「分かってるから言ってるんだろ!お前のために「何が”お前のため”なの!そんな言葉、もう二度と聞きたくない」

「出てって」

怖じけづいているけど動かずに対面する影。
ガン!
物を投げる音がして。
「出てけよおおっ!!!!!!!」
何かがサイドテーブルから落ちる音に掻き立てられて、影はしぶとい表情のままようやく姿を消した。
「ああああああぁああぁっっっ!!!!!」
誰もいない部屋の中、言葉にならない戯れ言はもはや悲鳴にしかならないそれを聞いてくれる人などいないのに、叫ぶことをやめられなかった。

***

「数が多い……」
(今日は、特に機嫌が悪かったから……)
「チッ」

(どうして、オレの言うことを聞いてくれないんだ…)

さっきの言葉がフラッシュバックする
『何がお前のためなの!そんな言葉、もう聞きたくない』

(お前のためにオレは怒ってるんだ……いい加減にしろ)
『分かってることを繰り返し言わないでって言っているのが分からないの!!』
(じゃあお前がそう言うなら、オレの言うことも少しは理解ってくれよ!)

(だってオレは…!)
(“一番長い付き合いの友達(イマジナリーフレンド)”…)
(!)

油断した隙を突かれて、腹のど真ん中に衝撃が走る。
「がはっ!」
大きく体制が崩れて、ぐらり。そのまま空中から下へ下へと堕ちていく。呆気ないぐらい、簡単に。瓦礫と共に、バラバラと崩れていく。

「ぐうっ!」
(折れて、堪るかぁっ!)
空中で決死の想いで身を捻り力を奮い立てる。すかさず影の小隊を暴いて掻き消していく。

静かにくすぶる闇の粒子。誰もいない世界の端っこで、瓦礫の影に背中を預けた。
あちこちがはすでに崩れて欠けた跡、今日の戦闘で腹の真ん中が大きく穴が空いたように体が無くなった。

(closedの文字が掲げられ横たえたドアが写る)

創造することをやめた世界が、もう、広がることはない。
綻んだ場所から、壊れて、消えて、あいつの記憶と共に無くなっていく。

オレは、まだ、必要とされているのだろうか。