魔界の郊外、色とりどりの花が咲き乱れる草原に秋良は寝転んでいた。
揺れる草花を背景に、秋良の横顔が映る。
*秋良の回想*
彼女が焼き払い、葬り去ろうとしたこの場所で……闇の炎を纏った剣を、振りかざそうとしたあの時。
僕の目の前には、
幼い姿の僕(秋良)がいた。
いや。
彼を、僕の代わりとして見てしまったのだが、すぐに違うと思い知らされた。
彼はまさしく、空想世界に現れた、希望の光だったのだ。
僕の目の前に片翼になった少女(女神)を連れて現れた一人の少年、清水涼春。
可憐な姿をした、ただの子供だと思っていたが…。
彼は過去の僕に出来なかった事を――
彼女を本当の空想世界の神として慕い、守り、寄り添い続ける意志を、目前に示したのだ。
それだけの器を持っている事は、一目みて理解していた。(ここ、涼春が『オレの女神様に~』の絵を入れる)
しかし、闘わねばならない状況で彼と対峙してしまった。
ここで折らなければ世界が再び脅威にさらされる事態である事は変えられない。
役を捨てられない哀れな王は力を振りかざし、一人の少年を追い詰める。
衰弱し倒れ、最後の止めだと剣を振りかざした、その時だった。
『これが、女神に見せたかった世界だ。
オレに、託してくれ』
彼女が愛した、咲き乱れていく世界が、目前に現れた。
必死に守ろうと、庇う彼を見た。
そして。
その後ろ姿に釘付けになった。
打ち負かされた口から溢れた感情は、
『惚れたよ』
軟弱だが、本心だった。
彼女と共に歩もうとする彼に、僕までもを託したくなってしまうとは……。
彼に過剰な期待をしてしまっている事は、事実だ。
僕と彼女が双方から寄りかかってしまったら、彼はたちまち駄目になってしまうだろう。
だからこそ、彼に期待相応の働きをしてもらうためには、
「どうしようもない自分を変えてくれるのではないか」という淡い期待は、消さねばならない。
これは彼のためであり、彼女のためでもある。
僕は、彼らを見守るために、一歩、身を引く決意をした。
思い焦がれる胸の痛みを無視して、目を閉じた。
「此方にいらしてましたか」
優しく、子供のように高い声がする。
見上げると、太陽に照らされたユサの姿が見える。
「すみません。お時間ですので…っ」
ぺこ、と頭を下げて伝えてくる。もう城に戻る時間だったか、と思案した。
「ああ」
秋良は驚きはしなかったが、この場に従者が来たことは気にした様子だった。
おもむろに立ち上がり、青年は影を纏う。